長期間にわたり継続して取り組んできたのは、環境指標、環境勘定など、政策支援のための環境情報に関連する研究である。環境庁企画調整局およびOECD事務局において、環境情報関係の業務を経験し、その後も環境情報、とくに環境指標に関する内外の活動に参加してきた。環境指標から持続可能な発展の指標への展開が、この分野における主要課題である。 環境勘定の研究には、1990年代始めから着手し、産業間、地域間の物量フローの記述を主たる課題としてきた。物質フロー分析(MFA: Material Flow Analysis)の国際比較研究に参加し、1997年および2000年に日米欧の国際共同研究報告書を出版した。これらの成果は、2003年に策定された循環型社会形成推進基本計画での物質フローに基づく指標、数値目標の採用につながった(文献1)。物質フロー分析は現在の主要研究テーマである(文献2)。環境負荷の排出目録(インベントリ)も、MFAの一種とみることができる。日本国政府が気候変動枠組条約に基づき提出する温室効果ガス排出インベントリのうち、CO2排出量の算定手法の原型となる論文を、1993年に発表している(文献3)。 ライフサイクルアセスメント(LCA)のインベントリ分析(LCI)は、MFAと手法面での多くの共通点を持っている。LCAに関しては、産業連関分析(IOA)を用いた原単位データベースの構築(文献4)や、自動車についてのLCCO2排出量の分析から着手し、LCIAの手法開発、輸送・循環システムについての事例研究などに取り組んできた(文献5)。 これらMFA,LCA,IOAの研究の蓄積をもとに、2001年4月に国立環境研究所に発足した循環型社会形成推進・廃棄物研究センターにおける政策対応型調査研究に参加し、循環型社会づくりを支援するための環境評価手法や情報基盤づくりに取り組んできた。容器包装など個別リサイクル法のもとでのリサイクルの現場から、循環型社会の理念や循環的利用の優先順位の原則を再考している(文献6)。LCA研究で自動車や公共交通を研究対象としたほか、交通に起因する環境問題にも幅広く取り組んできている。学位論文のテーマとした沿道の自動車排ガス拡散予測手法、広域都市圏の交通公害改善策の効果予測システムなどのテーマを経て、運輸部門の温暖化対策、さらには「持続可能な交通システム」(文献7)すなわち地球環境時代の交通システム論へと関心は広がってきた。2004年から開始された「脱温暖化2050プロジェクト」の交通チームの代表者を務めている。 [文献] 1)森口祐一: 循環型社会形成のための物質フロー指標と数値目標, 廃棄物学会誌,14,242-251,(2003) 2)森口祐一:人間活動と環境をめぐる物質フローのシステム的把握,環境科学会誌,18(4),411-418,(2005) 3)森口祐一・近藤美則・清水浩:わが国における部門別・起源別CO2排出量の推計,エネルギー・資源,14(1),32-41,(1993) 4)http://www-cger.nies.go.jp/publication/D031/index-j.html 5) 森口祐一: LCAをとりまく研究分野の歩みと今後への期待, Journal of Life Cycle Assessment, Japan, 1(1), 10-15,(2005) 6)森口祐一: 循環型社会から廃プラスチック問題を考える, 廃棄物学会誌, 16(5), 243-252,(2005) 7)Moriguchi, Y. & H. Kato : EST case studies and perspectives in Japan, European J. Transport and Infrastructure Research, 4(1), 121-145, (2004) |